突然ですが、タイで駐在生活を送られて現在はメキシコ、もしくはその逆になる予定の方はいらっしゃいますか。タイとメキシコ、何が違いますか?
今回はタイでの出会いをきっかけにメキシコで国際会計事務所・Asia Alliance Partner Mexicoを立ち上げたメキシコ事務所責任者・加村博彦様にインタビューをしました。
インタビューではメキシコに来るまでの経緯や、タイとメキシコの2か国の違いをビジネス面・生活面でそれぞれお話しいただきました。2カ国での滞在経験がある方はきっと納得することが多いかもしれません。
<目次>
スペイン→メキシコ→日本→タイ→そしてメキシコに戻る
ー加村さんはメキシコ以外での国のご経験が豊富です。メキシコにいらっしゃるまでのお話を教えてください。
加村様:私は1983年日本で生まれ、すぐに父親の仕事の都合で幼少期はスペインにで過ごしました。小学校からはメキシコに行きました。メキシコシティに住み、小・中学校はリセオ(日墨学院)に通っていました。メキシコでの生活は本当に楽しく、後ほどまた説明しますが、本当に恵まれていました。
その後、高校で日本に戻り、大学は外国語学部のスペイン語学科に進学しました。卒業後日本で製造業の会社に就職し、経理部に配属になりました。経理のことが何もわからないまま経理部に配属されたので苦労しましたが、いい勉強になりました。配属から4年後、タイでの工場の立ち上げのプロジェクトに参画するためにタイに赴任になりました。そこで会計・税務マネージャーとして様々なことを勉強しました。
そんなある日、現在の会社であるアジア・アライアンスパートナーの代表から、「メキシコに拠点を立ち上げたい。会計知識のあり、かつスペイン語の話せる人を探している」というお話を頂き、ご縁あって2015年にメキシコに戻ってきました。
アジア・アライアンスパートナーはタイで日系企業向けに会計サービスを提供していました。タイでは日系企業が10,000社近くあり、日系企業のプレゼンスも非常に高いです。そして次どこに拠点を立ち上げようかとなった時に当時日系企業の進出が盛んだったメキシコに目を付け、私が行くことになりました。メキシコでも同様のサービスを行っており、会計記帳だけではなく、給与計算、税務関連のコンサルティングサービスも提供しています。アグアスカリエンテスに拠点があり、シラオのG100に事務所があります(詳しいお問い合わせ先はこちら)
―メキシコでの楽しい想い出があり、スペイン語を勉強してきた加村さんにとって、現在の会社の代表とのご縁は非常に貴重でしたね。念願叶った形になりますね。
加村様:先ほども少しだけ話しましたが、メキシコでの生活は本当に楽しかったです。いわゆる駐在員の息子として色々恵まれていて、2ヶ月に1度は高地休暇があり色々な場所に連れて行ってもらいました。メキシコ人の友達も沢山出来たので、将来はメキシコかスペインで働きたいと思っていました。でも・・・
―でも?
加村様:2015年にメキシコに来て感じたのは、自分の記憶の残像にある楽しいメキシコとは全然違っていました。輝かしい想い出とのギャップが非常にありましたね。特に仕事をする上での商習慣を理解することが難しかったです。文化などでは”Mexico Lindo!”と思いますが、メキシコの商習慣で仕事をすることは外国人にとって難しいことが多いと感じました。
どこの国も日本とは違うことを意識してほしい
―ここで、タイとメキシコ両国での就業経験がある加村さんにお聞きします。タイと比べて、メキシコで日系企業がビジネスをする時に苦戦する点は何でしょうか。加村様のご意見をお願いします。
加村様:共通点としてあげられるのは、外国は商習慣が日本とは違うということです。それぞれの国の国民性を理解し、そこに適応していくというのが難しいのかなと思います。日本人の方に多いのが “日本が投資している・日本から来ている” という一種の驕りがあると、より一層適応していくことが難しくなり、会社スタッフや現地人との間大きな溝ができてしまい、上手くコミュニケーションがとれなくなってしまいます。“現地で働かしてもらえている”という風な考え方に変えることによって、仕事がやりやすくなります。
反対に相違点としてあげられるのは、タイは日本と同じアジア諸国の一つです。国民の気質はマメで几帳面だったりするところは日本人と共通するものがあります。
メキシコは商習慣からして日本やタイとは全く違います。メキシコは国全体がお金が足りていません。税金を国民かどのように合理的に徴収するかシステムが動いていますが、税制の改革がタイや日本と比べて頻繁にあります。しかも、右だったことが左になるくらいの大幅な改正が多いです。メキシコの法律も曖昧で、とある法ではAという解釈が、別の法ではBだったりと、、、どう判断したらいいのか困ることがあります。私も改正がある度にお客様に説明するためにしっかり理解するのに精一杯になっています(笑)。
一方でFacturaの仕組みや大幅な税制改革にシステムなどのインフラが整っていません。特に3月31日の企業の締めの時はSATのウェブサイトは繋がりにくくなります。近代的な改革を進めるスピードが速いにもかかわらず、こうしたインフラの脆弱さが浮き彫りになるというところがありますね。
―ビジネスにおいてのタイとメキシコの共通点・相違点をお話しいただきましたが、次は生活面での両国の共通点・相違点はいかがですか。
加村様:共通点としてあげるなら、まず1つ目はタイ人もメキシコ人も人柄がいいことです。
2つ目はどちらの国も外国人を受け入れることには規制も少なくオープンです。例えばインドネシアはコンサルティング業ではビザが下りないなど、外資に厳しい環境です。また、タイは日本や韓国、華僑の文化をとても吸収しており、メキシコはアメリカの文化を吸収、最近では韓流などの文化も吸収するなど、タイもメキシコも様々な文化を吸収する点も共通している点といえますね。
反対にタイでは私の経験上、タイ人と友達になることがないです。タイではバンコク周辺を中心に約5万人の日本人が住んでおり、日本人コミュニティが大きいです。日本と変わらない感覚で生活が出来るため、タイ人との触れ合いが殆どありません。それと比較すると、メキシコはすぐにメキシコ人の友達ができます。これはスペイン語が話せる・話せないにかかわらずすぐにできますね。メキシコ人は友好的である反面、距離がが近すぎて業務に支障が出てしまうこともあるかと思います。
メキシコの気候は最高!緑も多く伸び伸びと生活できるところがいい
―ズバリ、加村さんにとって長く住むならタイ?メキシコ?どちらでしょうか。
加村様:本音は1年のうち半分はタイ、半分はメキシコですね(笑)。それぞれにいいところがありますから。料理はメキシコもタイも私にはどちらもあっていました。環境面は断然メキシコです!
―分かります!ただ、この環境面の良さをなかなか日本にいる日本の友達や知人が理解してくれず、悲しいです。
加村様:同感です。メキシコはカラっとした天気で雨も少ない。バヒオ地域は緑も多く、ゆったりとした環境で住むことが出来ますよね。タイは湿気も多く、首都バンコクは1000万人ほどが住む大都会なので、アパートメント暮らしでメキシコのようにゆったりと緑に囲まれて住むことが出来ないですね。
タイ、メキシコ、日本。3か国の架け橋になっていることを実感
―2015年にメキシコに来られてから最も苦労したこと・最もやりがいを感じたことを教えてください。
加村様:最も苦労したことはやはり拠点立ち上げ時ですね。税法を理解することに非常に苦労しました。先ほども少し触れましたが、会計事務所として日系企業のお客様に分かりやすく説明するためには自分自身が法律を深く理解しなければいけません。会計の法律で認められていることが税法では認められていない等のこともあり、まるでメキシコの病院みたいに専門家が独立している・解釈がお互い相反しているため、それを自分の中で繋ぎ合わせたり、選択したりするのが大変です。お客様に合わせたオーダースーツを仕立てていく感覚と同じです。また、メキシコはSATや税関などの権威が物凄く強いため、細心の注意を払って税務処理を行っていかなければいかません。
やりがいを感じたことはいくつかありますが、日本人としてタイとメキシコでコンサルティング業務が出来ていることです。両国の商習慣に精通している日本人はあまりいないと自覚しています。スペイン語とタイ語を話せることから、メキシコ人向けのタイ投資セミナーをやらないかと言われた時は自分は求められていると実感しました。
在タイ・メキシコ大使館とは非常に仲良くしていただいていて、タイの日系企業向けにメキシコの投資セミナーを行っていました。セミナーをして目に見える結果はないかもしれませんが、タイとメキシコ、日本の架け橋になっていると感じました。
毎年12月には在メキシコ・タイ大使館主催のタイ国王誕生記念パーティにも招待いただき、タイの企業でメキシコに進出する企業向けの投資セミナーも行ったことがあります。
メキシコはポテンシャルのある国。やり切った時の爽快感は格別!
―まさに日本・メキシコ・タイの3か国の架け橋として重要な役割を果たしていますね!最後に読者の方でメキシコで仕事をされている方へのメッセージをお願いします。
加村様:メキシコで仕事をされている方は、困難な事が多いと思います。何度も申し上げて恐縮ですが、メキシコの商習慣を理解するのも難しく大変です。ただ、それでもメキシコは他国と比べてもビジネス環境は整っています。商習慣・税法の改正など難易度は高いところもありますが、やりがいは非常にあります。やり切ったときの爽快感は日本やタイよりも感じました。アメリカの傘下ということもあり、メキシコには将来的なポテンシャルがあります。 是非くじけずに、もし何か私がお手伝いできることがあればいつでもご相談ください!
経歴:
1983年生まれ。幼少期から10年以上スペイン語圏(スペイン、メキシコ)で生活をし、初等教育から中等教育をメキシコシティにある日本メキシコ学院で受ける。日本帰国後、関西外国語大学スペイン語学科卒業ののち、日本の製造メーカーで経理財務業務に9年間従事し、その中で4年間のタイ国での駐在経験をする。タイ国の現地法人では、会社立上げ、組織再編及び管理部門の統括と整備業務に従事。2015年7月よりAsia Alliance Partner Co., Ltd.(タイ)に入社し、2015年8月よりメキシコ現法を設立し事務所責任者となる。
編集後記
こちらからの質問にテンポよく答えていただき、インタビュー中は終始笑いの絶えなかった加村さん。
中南米を渡り歩いてメキシコ、欧米にいた経験があってメキシコに来ましたという方はよく耳にするのですが、タイからメキシコという加村さんのような方はおそらくご本人も仰っていたように唯一無二の貴重な存在だと思いました。
タイ語・スペイン語・日本語・英語と4か国語を操りながら会計や税務にも詳しく、会計などのコンサルティング以外でも文化の違いなどもしっかり熟知しており、モノの見方が非常に広いとも感じました。
タイとメキシコでの生活経験がある加村さんから語っていただく2つの国の良し悪しはどれも納得のいくものでした。更には日本での就労経験もあるため、日本との比較も出来る。3か国の架け橋として今後もどのような活躍をしてくださるのか非常に楽しみな方です。