今回のインタビューは A. Kasuga Consultores 代表のアレハンドロ春日氏です。
アメリカの大学・大学院や日本での10年間の仕事の経験を得て長年メキシコ・プエブラヤクルトの社長として勤務し、現在はご自身の会社A. Kasuga Consultoresを設立し、メキシコ企業に日本的改善文化を自ら考案し、KIZUKAI®メソッドを導入。発行した著書"Kizukai, Kaizen aplicado a la cultura organizacional"はAmazonメキシコの国際ビジネス書部門で第2位の売上となるベストセラー。メキシコにおけるアメリカ、ヨーロッパ、日系企業からの信頼も厚い春日氏にKaizen制度を導入する際の難しさや、Kaizen制度の延長線上に何があるのか。また、ご自身が行っている社会貢献活動のお話や、日系企業の優れた点はどういうところかなどもお聞きしました。
日本語メディアに取材を受けるのはMEXITOWNが初ということで、日本語で春日氏の活動を知っていただく貴重な機会となりましたので、是非ご覧ください。
<目次>
メキシコ、アメリカ、日本での経験が今の春日氏を作り上げている
ーメキシコ企業に日本のビジネスマナーでもある「改善・気遣い」を教え続ける春日さんですが、これまでのご経歴をお話しください。
春日氏:私はメキシコシティで生まれ、先日MEXITOWNでもインタビュー記事が掲載されたリセオ(日本メキシコ学院)で高校まで学びました。その後、アメリカのカリフォルニア大学バークレー校に進学し、一橋大学にて1年半交換留学生しました。アメリカとメキシコで就業する前に日本で働いてみたいと思い、大学を卒業後は日本のヤクルト本社に6年間勤めました。外国人社員とは別で日本人社員としてトレーニングを受けました。自ら door to doorの営業を3年間行いその管理部門で3年間働かしてもらいました。その後終身雇用で守られている制度に疑問を感じたことが、後の私のコンサルティング方式に影響を与えました。経理部に所属していた頃にAmerican Graduate School of International Management で国際MBAを取得しました。帰国後ヤクルト本社の国際部に配属になりました。日本の会社の社風はそえぞれ違いますが、終身雇用やローテーション制度を自ら経験するこができ有意義な体験でありました。今の自分は特にdoor to door の営業を3年間の貴重な体験があったと確信しています。
この日本的社風をアメリカ的社風をブレンドすればより一層勉強なると考え大学時代の夢でもあったコンサルティングの仕事の憧れを追求ヤクルト本社を退職。日本のデロイトコンサルティングにファイナンス部のシニアコンサルタントとして4年間で勤務を行いました。読者の皆様の中にもコンサルティングファームでの就労経験が想像がつくかと思いますが、外資系コンサルティングファームは実力主義。終身雇用という考えは一切ありません。成果を残せなかったらクビです。終身雇用制度からアメリカの成果主義の社風のショックでしたがこのギャップは今の経営方針のベースになっています。
コンサルタントの給料や福利厚生が非常によかったのですが残業が多かった時代でした。妻が妊娠し、「仕事ばかりの生活で、妻や子供たちに会えない生活はつらい」と思うようになり、デロイトコンサルティングを退職。メキシコに戻り、プエブラにあるヤクルトの販売会社(YAKULT DE PUEBLA SA DE CV)の社長として就任しました。
プエブラヤクルトには2002年から2020年までの18年間在籍し、この期間2007年に大統領からメキシコ品質賞を受賞し、その後2009年にポルトガルにてイベロアメリカ品質賞を受賞しました。この様々な賞を受賞した理由は日本の改善文化をメキシコ人の全社員にシステマティックに浸透できたからです。各社員が自分が担当している業務のプロであることの認識させこの基本業務が内部外部の顧客にどのようなインパクトがあることを考えさせスムーズに提案を出す構造を作りました。
そしてこの数多くの提案をスムーズに運営するためアップを開発し、この改善方をKIZUKAI改善メソッドとして考案しました。予想もつかない結果を得たため他の企業にパイロットテストとして導入し始めました。第1社はラテンアメリカトップにサファリパークのAfricam Safari (africam.com.mx)に導入。全社員がトップマネジメントが望む改善提案とその運営が明確であったため社長のフランク・カマチョの推薦でA. Kasuga Consultoresを立ち上げ、様々な大企業(日系企業ではHILEX、HARADA)MAGNA AUTOTEK,CAPSUGEL,SALSAS TAJIN, KEKEN等にこのメソッドを導入をはじめ現在50社以上のお客様がこの改善メソッドを利用し、アジア、ヨーロッパの16カ国にこのメソッドの講演に誘われています。その後本を出版し現在アマゾンメキシコの国際分野で10ヶ月後まだトップ10位にいます。
まずは身の回りの整理・整頓、そしてKaizenの導入
ーA. Kasuga Consultoresというご自身の名前を会社名とし、多くの企業にKaizenやKizukaiメソッドを導入し続けています。しかし、Kaizen制度はどの企業にもそう簡単に導入できないとお聞きしました。
春日氏:私のお客様の多くの企業は大規模であり中小規模のファミリービジネスはKaizen制度を導入するのは中々困難です。ではどうして中小企業には導入できないのか。答えはいたってシンプルで会社に管理制度や就業規則などのルールが存在しないからです。要はプロセスの安定ができていないのです。そうした会社にKaizenメソッドを導入できる可能性がゼロというわけではなく、段階的に行っていくのです。患者さんが緊急室に入ると同様にお医者さんは第一目標としては患者さんのSIGNOS VITALES(体のバイタルサイン)、体温、体圧などを安定します。その後何が悪いのかをみつけ、施術をします。また体が安定すれば再度施術し体の調子を改善します。中小企業では同じようなプロセスを行わければなりません。
この安定性を導くため職場の文化を日本化することを第一ステップとしてまずは整理・整頓、いわゆる5Sを導入し、机回りや書類、文房具の整理などから是正していきます。具体的な方法として行ったのが、マスキングテープを使って、ペンを置く場所・カレンダーを飾る場所はここですよ、という印をマークしていきました。床にも椅子を置く場所をマークしました。この5Sのチェックするため内部監査ではなくて外部の企業を雇いソープライズ監査を依頼しました。そうした習慣を身に着けたところで今度各プロセスの整理整頓を確立し、そしてプロセスに出てくる非効率的・非生産的に感じるところに対して、安定が目標第一する事です。いわば、中小企業にはもっと日常の段階から整えていくということです。とある会社に整理・整頓を叩き込むまで3年ほどかかりましたね。
整理・整頓の文化を浸透するため、この整理整頓の重要性をメキシコ人の社員に伝うためはただ身の回りのものを片付けることだけではないと考えています。整理・整頓を通して価値観の共有ができます。Vasos de comunicantes コップつながり理論の考えで、1つのコップに水を入れれば、繋いでいコップに水が流れていく。コップに流れていく水が価値観だとすると、つながっている他のコップに水が流れ価値観が自然的に促進します。例えば時間厳守を促進すれば他の価値観が向上します。例えば責任感、Empathy,Discipline,Honesty,等。整理整頓の重要性は他の価値観と違い、一目稜線である事です。私には社風を日本化するためこの狙いもあります。
社員1人1人がプロフェッショナルであることを言い聞かせる重要性
ーそうした中で、反発する社員の方、中々浸透しなくて苦労されることもあったかと思います。そうした場面に直面した時、どう対応していきましたか。
春日氏:ラテンアメリカ諸国の人の愛社精神の向上心をいかに伸ばすかという点は苦労しましたね、日本では社会全体として整理・整頓が大きな共通点になっていると実感しました。尚日本の会社では現在変わりつつありますが終身雇用が目標があります。要は日系企業では整理整頓や終身雇用が体の器官をつながる血だと思います。要はこの血は社員をEveryday,everybody and everywhere を結んでいます。その上、他にある血は私の考えでは日本人は気遣い気を遣うの文化こともあり、日本人社員もローテーション制度があるため他人が今何を考えているのかが理解できることもあり提案を出し実行する文化に憧れました。そうしたところが重要だと実感し、KIZUKAIメソッドを取り入れるようになったのもあります。さて、向上心をいかに伸ばし、整理・整頓のメソッド、更にはその先のKaizen制度の導入まで実行していくには、自分がその職種のプロフェッショナルであることをメキシコ人社員に常に意識させ、褒めて伸ばしてあげることだと思います。掃除の担当者は掃除のプロ、受付の人は受付のプロ、あなたはその職種のプロだから、あなたらしい提案を出してもらいたい、と言い聞かせてモチベーションを挙げてもらう。そうした心掛けも必要と思います。
ー社員の愛社精神を向上するため企業の社員だけでなく、社員の家族にも整理整頓の文化を浸透していくとか大事。
春日氏:そうですね。メキシコ人にとって家族は何よりも大事な存在です。社員に5Sを浸透するため勤務時間だけだなく24/7出なければと考え、社員の家で5Sも導入することにしました。家族全員が集うキッチンに整理整頓を実行してもらい、これをどのように維持するかを家族会議を行うことも教えてあげました。最後に格家族メンバーの貴重な書類の整理整頓にもやってもらい、家族メンバーが5Sの重要性を実感できることができました。
現在は家の経費の5S整理整頓の授業も行っています。その中の一つに家計簿(Kakeibo)があるのですが、これも経費を整理・整頓する一つの大事なメソッドですね。メキシコの大卒の給料はMXN$12,000、コーラは1本16ペソとして、毎日飲むと16×365日で合計MXN$5,500の出費になります。つまり、毎日コーラを飲むのであればほぼ半月の給料を占めていると教えると驚愕します。社会活動として私は国立大学で教鞭をとり学生にも5Sの講義をしています。こうして若い頃から金銭についての教育をKakeiboの考えを使って育成していきます。
ー先ほど大学で教鞭も取られているお話しが出てきたところで、春日さんが社会貢献活動として行う一つとして、野球の試合のゴミ拾い活動があります。
春日氏:サッカーワールドカップにて日本のファンが試合の終了後にゴミを拾うことが世界的にすごいインパクトがありました。メキシコにもこの整理整頓の重要性を普及するため現在Organizacion Impulsora de Valores OIVという団体のFOUNDERです。現在は野球プロチームのプエブラのP E R I C O S、メリダのLEONES、マサトランのVENADOSとグアサべの
ALGODONEROSと協定結んでおり、格家族にゴミ袋を提出し試合後には自分達のゴミを拾ってもらっております。「野球の試合の後散らかったスタジアムを片付けることで気持ち的に会場がきれいになることがとても嬉しい」「子供に対して、試合を見た後はゴミ拾いをするんだよ」という声も聞こえてきています。今後メキシコの全野球チームに広まったらいいなと思います。
日系企業の計画性で、メキシコ人のクリエイティブ能力を伸ばす
ー日系企業とメキシコ企業の両方での就業経験がある春日さんから見て、日系企業の良い点・悪い点を挙げてください。
春日氏:私から見た日系企業の良い点。まず1つ目は、細く長く会社を経営することです。しっかりと長期計画を建てています。長期的に物事を見ているからだと思います。メキシコと違って日本には四季があります。冬が寒くて生きていくためには春に田植えをし、秋に収穫し米を蓄えていくという計画性は日本独特の四季があるという気候からも来ています。逆にメキシコは四季がなく一年中緑にあふれている恵まれた気候です。凍え死ぬこともないので、食糧がなく死ぬという可能性もないため、つい計画性に乏しいところが生じてしまいます。
こうして語るとメキシコ企業が全くダメなのかともとられてしまいがちですが、そうではないです。メキシコの特徴としてはとてもクリエイティブと言う部分です。計画する習慣があまりないため、何か予想していないことがあれば全力で意外なアイディアを出します。どのぐらいメキシコ人がクリエイティブだという証拠は毎年開催される世界ロボット大会での1位は日本、2位はメキシコなルケースが多いのです。実はクリエイティブな発想を持つことが出来、素晴らしいアイディアも持っています。そうしたメキシコ人のクリエイティブな能力を日本人の持つ計画性とうまく合体させて、より良いものが生み出せるのではないかと考えの元で私が考案したKIZUKAI改善法のベースであります。
また、良い点・悪い点とは少し離れますが、日系企業の制度を見てきて面白いと思ったのが、独身寮については、良い・悪いではなく、独身寮に同期・先輩・後輩が一つ屋根の下で生活を共にし、まるで家族のような関係になる。その後結婚しても社宅に住み家族ぐるみで付き合いが続いていく。新卒で入社した時の同期がそれぞれ違うライフステージになったとしても長い付き合いが続いていくのは、他国ではあまり見られない光景かと思います。
悪い点としてあげるとすれば、単身赴任の制度です。これは世界的に見ても極めて珍しい制度といえるでしょう。家族が一番重要な存在であるにも関わらず、家族と離れ離れになり、会社のために働くというのは良い仕事を生み出すことが出来ると思いますが、家族の絆には悪影響があると思います。
人生はあっという間、今ここにいることに感謝を
ー春日さんがここまで日系企業の良い点をメキシコ企業に浸透させていくには、大きなポリシーがあるからだと思います。そのポリシーについてお話しください。
春日氏:日本の文化とメキシコの文化。それぞれ良いものを合体していいもの・いい世界を作りたい、メキシコの企業に協力したいというポリシーです。
どうしてメキシコで生まれたのか、どうしてこの家族の元に生まれてきたのか。アメリカと日本で進学・就労することができたという出来事の組み合わせの結果が、日系企業の良い点をメキシコ企業に導入するという一つのミッションに繋がったと考えています。新型コロナウイルスのパンデミックの2年間、落ち込んだ時もありました。私の親しい起業家が亡くなり、人生はあっという間でいつどこでどうなるか本当にわからない。神様や様々な方のおかげで今の私があることに感謝し、自分ができることで社会に貢献していかなくてはならないと考えています。
言葉よりも行動を意識し、社員のお手本になってください
ーMEXITOWNの読者の皆様の中には日々メキシコ人従業員と上手く付き合うために、日々奮闘する管理層の方もいらっしゃいます。そうした方々に春日さんからのエールをお願いします。
春日氏:大きく分けて2つあります。
言葉よりも行動
メキシコの社内コミュニケーションによく言われるのはChisme de Pasillo。廊下の噂であり、スペイン語や英語で話すより、特に日本人マネージャーの場合はどのような行動をすることです。行動する前に一呼吸おいて考える必要があります。メキシコ人の従業員に挨拶をしないことはこの社員を下にみるような態度と言うことであっという間に多くの社員に噂になってしまいます。私が以前お世話になった日野自動車の古川元社長は、整理・整頓が非常にしっかりされていた方で、庭のゴミ一つでも落ちていたら自らが拾うような方でした。そうした姿をメキシコの社員の方々も見ていて尊敬し、整理・整頓を心掛けようという働きかけもできました。
メキシコの文化を知る
メキシコ人に対して交渉や商談を行うときは、数字を使って説明することを意識してください。メキシコの文化の中にはAhorrita, Mañana など時間が曖昧なことが多いです。尚時間だけでなく、KILOS,PESOS,METROSなどを利用すれば言葉の壁がすこしずつ無くなります。数字を使って話すことで物事を客観的に分析もできるようになるので、是非試してみてください。そして、彼らが実行できたときには、どんな些細なことでも褒めてあげてください!
メキシコ人は情熱な文化であるので常に社員を褒め、言葉をかけることも非常に重要だと思います。
ー本日はありがとうございました!
経歴:
Alejandro Kasuga アレハンドロ春日
メキシコ市生まれ。
趣味は釣りとマリンスポーツ
週末は家族と過ごす事
編集後記
今年3月にケレタロで開催されたASEMEJAの研修生同窓会の時にも講演をされていた春日氏。その際の講演言語はスペイン語でしたが、多くの方が春日氏の話す内容とその身振り・手振りに吸い込まれていたのが印象に残っていました。そして今回1対1でインタビューをすることになりました。著名なビジネスマンのオーラを残しつつも、話すと非常に楽しく、テンポの良い展開で進んでいきました。ご家族のことを考えてご自分のキャリアを決断したところには、著書や講演などからは伺うことができない春日氏の一面も見られました。
日本での就労経験 x MBA x メキシコでの就労経験 x メキシコ生まれX 3か国語=アレハンドロ春日氏という1人のビジネスマンですね、とお話しした時も謙遜されていましたがまさにその通りで、色々な経験の掛け算の結果がアレハンドロ春日という人間であり、その答えが持つ日本とメキシコの良い点を合わせて、良い世界を作り上げていくというポリシーに繋がっていくのだと実感しました。
A Kasuga Consultores
執筆者紹介:
温 祥子(Shoko Wen)
MEXITOWN編集長兼CEO。メキシコ在住5年半。MEXITOWN立ち上げて今年で3年目に突入。これからも様々なジャンルの方をインタビューしご紹介していきます!趣味は日本食をいかにメキシコで揃えられる食材で作ることができるか考えること。日本人の方が好きそうな場所を探し回ること。