今回のインタビューは日墨協会・副会長の三井広一様です。
メキシコにお住いの皆様は一度はその名前を聞いたことがあり、特にメキシコシティの方は春祭りや秋祭りなどのイベントに参加されたり、敷地内併設のレストランに行ったことがある方もいらっしゃると思います。
今回は具体的に日墨協会の活動や歴史、三井様が行っているお茶の教室でのメキシコ人の感想、日本文化の継承で大切にしていることなどをお聞きしましたので、是非最後までご覧ください。
<目次>
日墨協会は60年以上、日系社会の発展に貢献
ー三井さんは日墨協会の理事を2015年から務められ、現在は、副会長でいらっしゃいます。日墨協会のご紹介をお願いします。
三井副会長(写真中央):日墨協会は1956年7月26日に設立されました。その後、本格的にメキシコの日系社会を代表する日墨協会が始動したのは1959年の日墨会館の完成からといえます。1956年の設立以前にも1910年頃から日本人会の設立がり、日系社会のコミュニティができていた頃もありますが、最終的に日墨協会の形になりました。
読者の方も日墨協会の活動はある程度ご存じの方が多いかと思いますので、今回は私が主に担当している文化事業のことを中心にお話しします。
まず、文化事業として始まったのは柔道教室と日本料理のレストランでした。その後、中央学院に柔道は移管されましたが、それ以外でもプールやテニスコートも整備されていき、生け花の活動も始まり、日系社会の方々がお互いに交流を、親睦を高めていくことを目的とした施設作りを目指していきました。
かつては盆踊りもやっていましたが、それは現在春祭りと秋祭りになって継承されています。日本文化に触れ合う場ということでお祭りを年2~3回行なっています。
春祭り・秋祭りの様子
また、先祖を敬うことは日本文化の大事な部分として行っている事業もあります。8月15日前後はお盆の法要を行ったり、日系社会の都市の方に交流してもらう機会として年に一度敬老会も開催しています。
ー日墨協会では機関誌も発行されており、そちらの編集に三井さんも携わっています。
三井副会長:BoletinNichibokuですね。私が2015年に広報出版担当理事に就任して以降、力を入れている事業の一つです。それまでは年に3~4回発行していたのを毎月発行するようにしました。BoletinNichibokuでは、日墨協会の活動や日系社会のニュースを伝えていく役割を果たしています。BoletionNichibokuは日墨協会のホームページでどなたでも閲覧可能ですので、遠くにお住いの方でも無料でご覧いただくことが出います。
ー日本語学校も併設されています。
三井副会長:日本語学校は年間合計850~900人近くの生徒の方が勉強しています。COVID19以降、現在は完全にオンラインですが、COVID19がある程度落ち着いてきたら対面でも始めようかと検討はしています。COVID19以降、生徒の方の数も少し減りましたが、850人くらいで継続が出来ています。実際オンラインになったことでメキシコ人の生徒の方からは「オンラインでも学びが多かった」と好評をいただきました。
ー日本語学校の卒業生の方を支援していくことが、日墨協会の目下の目標とお聞きしました。
三井副会長:そうですね。これまで日墨協会では日本語学校で日本文化に触れた人、学んだ人の中にどういう方がいて、その後メキシコでどうなっていたのかの追跡ができてない状況ではあります。日墨協会としては、日系社会で日本文化・日系社会の文化を継承していく人を支援したい・文化面で活躍しようとしている人・日本文化を学んで広めていき、生活に取り入れていこうという方を大事にしていきたいと考えており、そうした卒業生の支援の活動に力を入れたいです。もし、この記事をお読みになった方でそのような方をご存じでしたら是非ご連絡ください。
文化的な背景が違うことを意識し、日本文化の継承をする
ー三井さん個人はお茶の先生で、日墨協会で茶の湯の活動を進めています。そちらについて詳しくお聞かせください。
三井副会長:20年以上前から、茶道流派の一つの武者小路千家を学び、現在、日墨協会を通じてメキシコで茶の湯の普及に努めています。また、静岡県熱海市にあるMOA美術館の日本美術文化インストラクターの資格も保有しています。それは、茶の湯だけではなく、生け花も教えることができる資格です。
ーそうしたご経験を活かしてメキシコで茶の湯を教えていらっしゃるんですね。20年以上教えてきた中で、メキシコ人の方に教えるときに常に気を付けていることなどがあれば、いくつか教えてください。
三井副会長:この質問が結構難しいなと、このインタビューを受ける前に悩んでたところです(笑)。でも、ありがとうございます。
まず、西洋人と日本人とでは、様々な物に対しての考え方が違うということを認識しなくてはいけないと考えています。
例えば絵画の世界では、西洋人は人間中心、日本人は自然中心で自分がおかれている環境や 自分の生活している自然が中心に描かれていることがその一つとして挙げられます。西洋の絵画は古くから人間が中心で書かれているのが人間や個人です。人間中心の文化や描写がはっきりしています。反対に日本の美術は代表的なもので浮世絵や版画がありますね。協調されるのが風景や自然で、雨や雪が降る様子がメインで、人間の眼と鼻、口は点に近い形で描かれています。もちろん、人物を描いた版画もありますが、そういう人物を取り巻く環境があっての人物の絵が描かれている、と言えるのではないでしょうか?
今挙げたのは茶の湯と少し離れているかもしれませんが、茶の湯に限らず外国人の方に日本文化を教えるときはこのような文化的な背景が違うことを踏まえて接しないといけないと気を付けています。どういう習慣や考え方がメキシコ人と日本人で違うところか、常に考えながらお茶の活動を進めていきたいと考えています。
「和を追求する」というメッセージを明確にする
ー実際茶の湯の教室にいらっしゃるメキシコ人の方からはどのようなご意見がありますか。三井さんが驚いたことなどありましたか。
三井副会長:日本人の方でも長時間は辛いと感じる正座は、意外とメキシコ人の皆様は頑張ってされていることに感心します。ただ稀に突拍子もない質問がででくることはありますね。例えば「何で正座するんですか」「着物の袖は何故長いのですか」と聞かれ、答えに困ったことがありました。こうしたこと、日本人にとっては当たり前すぎて考えたこともないと思いますので、上手くその時は回答できませんでした。正座は、500年の歴史の中で積み上げられた作法であり、伝統的にこれが一番正式な座り方だからと答えましたが、「茶の湯では美を追求し、どういう座り方が美に近いかを考えて座るもの」と付け加えて回答をすればよかったなと後で思いました。
大江健三郎氏の著書「あいまいな日本の私」にもあるように、日本文化は定義が曖昧なところがあります。こうした曖昧な文化を我々日本人がどういう整理をしたいのかをはっきりしていきたいです。「和・敬・清・寂」この4つを基本に動作がありますが、一番重要なのは和を追求すること。聖徳太子の17条憲法にも記載されている「和(やわらぎ)を以て貴しと為し」ではないですが、そういう心を具体的にどう伝えていくか。茶の湯ではそれを追求することが目的の一つです。こうしたメッセージをはっきりさせて、文化的な背景が違うことを意識し、日本文化を理解していただくことを目指しています。
実際にメキシコ人の方からいただいた意見で一番多いのは、「心が休まる」です。また、瞑想をしている方からは「瞑想よりもお茶にした方が気持ちがすっきりして良い」、レイキの先生からは「お茶を立て終わった後茫然としました。心を静める、落ち着かせる修行は色々な厳しい訓練をするレイキでは得られないものをお茶を飲むことで得られるので驚きました」こうした意見がありました。それだけ、人間の精神面に大きな影響を与えることが分かっていただけてとても嬉しかったです。
日本文化を気軽に体験できる場を提供し、精神的不安を取り除いていただきたい
ー日墨協会の日本語教室はCOVID19以降、オンラインになったことは先ほどもお話しいただきました。それ以外で日墨協会ではどのような取り組みをされてきましたか。また、その時の反響なども教えてください。
三井副会長:MEXITOWNさんが以前に行った国際交流基金様のインタビュー(注1)でも少しご紹介されていますが、国際交流基金様の日本文化紹介の企画に協力し、茶の湯・日本舞踊・剣道・和食・書道の紹介をしました。お茶の場合はお茶を飲む作法を工夫して概要を説明し、実践としてお茶をどのようにたてるのか、どういう作法で基づいてお茶を飲むかを紹介しました。反響もかなり良く、和食の紹介が一番好評でした。もちろん茶の湯も好評でした。それ以外では、昨年7月埼玉県人会の子供向けのサマーコース(オンライン)を実施し、日本人の画家鈴木美登里さんや元宝ジェンヌの飯田イレネさんに協力して頂き、日本舞踊と絵画、そして、茶の湯のワークショップを行いました。
今後は各分野において一歩踏み込んだ内容をやっていくことが、これからの課題だと認識しています。他方、対面で色々な事業を再開することも行っていかなければならないです。
COVID19のパンデミックになって見えてきたものは、良い面も悪い面も含めてあったと思います。対面の活動が出来なければオンラインでというのはパンデミックにならなければ普及しなかったことです。同時に人間生活において受けた影響も大きいと思いました。精神科医や心理カウンセラーに聞いたところ、COVID19で恐怖・不安で参っている方が多い中、日本の文化は精神的に行き詰った状態から助けてくれることがあるのではないかと感じました。これまでなかなか手に届かなかったような日本文化の体験をすることによって心が安らぎ、人々の不安を解消することができる—こういう貢献の仕方もあるのだと気付きました。
日墨協会として、どうしたら気軽に日本文化に触れることができるのかを考えなければいけないです。
日本人・日系社会・中心的な存在として日墨協会
ー最後に、MEXITOWNの読者の皆様へメッセージをお願いします。
三井副会長:グアナファト州を中心としたバヒオ地域には日本から来られた方が多いです。そういう方々や、長くメキシコに生活されている方の中で基盤をつくっている方など、日墨協会はメキシコの社会の方々に是非、明確にお役に立てることを感じてもらえる事業を進めていきたいです。そういう希望があったら遠慮なくお聞かせいただいたら大変有難いです。 そして一緒になって企画し、皆様が喜んでいただけるような活動を行っていきたいです。
日本人・日系社会・中心的な存在として日墨協会があります。その存在価値をより高いものにしていき、更には日本人・日本文化自体がメキシコ、世界、人類にとって存在価値のあるものにしていきたいです。
最後に繰り返しになりますが、皆様からの貴重なご意見を日墨協会ではいつでもお待ちしております。本日はありがとうございました。
注1 : 【特別インタビュー:国際交流基金様】オンラインとリアルの世界のハイブリッド事業で、日本文化を発信する
経歴:
三井 広一(Koichi Mitsui)
熊本市生まれ。神奈川大学、イベロアメリカ大学歴史学修士課程修了。
1981年よりMOAインターナショナル勤務。1994年よりメキシコ在住、今日に至る。
2015年より日墨協会理事、2021年副会長就任。
編集後記
メキシコの日系社会で名前を聞いたことがないという方は殆どいらっしゃらないというくらいの存在をもつ日墨協会。日本庭園があり、レストランがあるということを何となく知っているけれど、実際どのような文化的事業を・どのような方が行っているのだろう…そう疑問を持たれていた方に少しでも三井副会長のインタビューを通して伝える事ができたらと思いました。
日墨協会の副会長であっても、自らご自身が茶の湯をメキシコ人の方に継承し、実際に受講された方の声や今後日墨協会が日系社会の中心で存在価値をより高めるためには何をすればよいかを明確にお持ちでした。日本文化と西洋文化の違いと、和の心を理解している三井様だからこそ日系社会にいるの方々、メキシコ人で日本文化を継承していきたいという強い意志を持った方々と積極的に交流し、支援をしていきたいという目標を実現することができるのではないか、とインタビューを通じて痛感しました。
お問い合わせ先
日墨協会 Asociación México Japonesa, A. C.
住所:Fujiyama 144, Águilas, Álvaro Obregón, 01710 Ciudad de México, CDMX
Tel:55 5593 1444
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