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「国際協力の現場から」—JICA小林所長が見つめるメキシコの課題と可能性

今回のインタビューは、今年6月にJICA(Japan International Cooperation Agency、独立行政法人 国際協力機構)メキシコ事務所・所長に着任された小林千晃氏にお話を伺いました。小林所長のこれまでの豊富な国際開発の経験や、メキシコでのJICAの現在の取り組みと今後の目標、小林所長から見たメキシコの魅力についても語っていただきました。

 

<目次>

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南米地域への強い好奇心から世界へ

 

MEXITOWN: 小林所長のご経歴を教えてください。JICAに入構した理由もお話しください。

 

小林所長: 私は2005年にJICAに入構しました。以来、防災、都市交通、廃棄物対策、産業・企業育成など、主に開発途上国における持続的な都市開発に貢献する国際協力プロジェクトの形成や運営に従事してきました。特に、防災分野のプロジェクトには15年以上関わり、洪水対策、土砂災害対策、気象観測、地震・火山・津波対策など、幅広い領域で活動してきました。

 

私がJICAに入構した理由は、高校生時代に過ごしたチリでの経験がきっかけで、今の仕事に大きく影響を与えています。当時の留学仲間が現在メキシコに駐在しているなど、国際協力の仕事を通じて、時を経て再会することが多々あります。その後も南米地域に対する強い興味を持ち、大学では文化人類学を専攻、ペルーやボリビアの少数民族の慣習を研究し、後述するブラジル駐在中には大学院で南米の国際関係学を学ぶきっかけを得ました。。沢山の南米の国々の文化に触れたことがJICAが行う国際開発に携わるきっかけとなりました。

 

ペルー 大学時代の人類学的調査 調査に協力頂いた方々と


JICAに入構してからは、インドネシア、ブラジル、モザンビークなどで勤務し、各国の駐在員としてプロジェクトの形成・運営に携わってきました。

 

最初の赴任地であるインドネシアでは、現地語を学びながら国際協力プロジェクトの形成や運営を学ぶ期間でした。初めての東南アジアでの長期滞在、初めてのイスラム国、初めての海外での仕事と初めて尽くしでした。初めてだからこそ様々な学びと出会いがあり、この学びと出会いの多さに病みつきになり今もこの仕事を続けているきっかけになったと感じています。


ブラジル国家勲章受章式典にて。エドアルド・サボイア駐日ブラジル大使と


ブラジルでは、2011年に発生した同国史上最大の土砂災害で一夜にして900名以上がなくなったことから、ブラジル政府の要請を受け災害に強い社会を目指す技術支援事業に従事し、防災領域での功績が評価され、同国政府からの叙勲や担当したプロジェクトが国連防災機関(UNDRR)の笹川賞を受賞するなど、大きな成果を上げることができました。


2019年から2020年にかけては、三井物産株式会社へ出向し、民間企業の海外プロジェクトと政府開発援助(ODA)の連携業務に従事しました。この経験により、開発途上国における民間投資促進と投資環境改善に向けたJICAの貢献可能性を深く認識するに至りました。


メキシコ赴任前に勤務していたモザンビークは、一人当たりのGDPが544米ドル(2022)とメキシコとは二けた違う環境で、貧困やインフラ不足が国の成長を大きく妨げています。3年半に及ぶ駐在機関ではあ、JICAの資金協力と技術協力を掛け合わせたインフラ開発(港湾、道路、学校、病院、水資源等)に没頭し、インフラにより人々が豊かになる様子を実感しました。


写真左:モザンビークインフラ開発(港湾)の現場にて

写真右:モザンビーク インフラ開発(JICAの支援で建設した変電所)の現場


日本のテレビ番組でモザンビークが取り上げられた時の一コマ。JICAの農業協力候補地を視察


メキシコは多様性のある国


MEXITOWN: これまでインドネシア、ブラジル、モザンビークでご経験をお持ちですが、メキシコとそれらの国々の違いや共通点についてお話しください。

 

小林所長: 前任地がモザンビークで、その後メキシコに赴任すると、インフラから日用生活品まで何でも揃っているように感じます。これまで19年間JICAに勤務し、約半分は日本で、半分は海外での勤務でした。インドネシア、ブラジル、モザンビークなど、多様な宗教や文化背景を持つ国々で仕事をしてきましたが、メキシコも非常に多様な文化があることを実感しています。JICAの活動が半世紀以上にわたって続けられているため、親日的な仕事のパートナーが多いことと、JICAの名前が広く知られているのも嬉しいですね。JICAの研修スキームで7,500名を超えるメキシコの方々が日本で研修を受けていることからも仕事のパートナーの多くが日本を知っており、政府や企業の要職に就かれているからも多くいらっしゃいます。

 

私は長年防災に関する国際協力に関わっており、これまでの駐在地インドネシア、ブラジル、モザンビークでは災害前後に駐在することが多かったです。メキシコでは災害が起こらないことを願いつつ、災害大国でもあるメキシコでは、1990年代に設立そのものから支援を行った国立防災センター(CENAPRED)に始まり、沿岸部の津波リスク評価や、ハザードマップ作成、耐震技術基準強化、自治体の防災計画づくり等様々な取り組みを行ってきています。

 

メキシコでは、災害発生日を記念日として国民への防災啓発活動を継続的に行っている、日本とも類似した非常に興味深い面があります。災害が身近で、防災文化もある、防災姉妹国ともいえる両国を繋ぎながら仕事ができることが楽しいですね。


メキシコの開発課題に寄り添う

 

ビジャロボス現農業農村開発省大臣、前JICAメキシコ所長・坪井氏と。

大臣はJICAの研修にも参加された


MEXITOWN: これからJICAメキシコとして特に取り組みたいことは何でしょうか。

 

小林所長: 世界的な気候変動の影響をメキシコも直に受けており、気象災害の激甚化や水資源の枯渇問題が顕著になってきています。不定期に発生する大規模な地震、津波もリスク要素としてあります。日本企業をはじめとした大規模な製造業が集積する地域でも自然災害のリスクが高まっており、自然災害は人的、経済的なリスクであると共に投資環境上のリスクにもなっていると思います。メキシコの持続的な発展のために災害耐性力を更に高めていく必要性を感じています。


来年は日本が世界をリードして締結された仙台防災枠組が採択されて10年、そして1985年に発生したメキシコ大地震から40年と、防災に関する国際的かつメキシコにとっても節目の年となります。日本のメキシコに対する防災協力はメキシコ大地震を契機に開始されていますので、日本とメキシコの防災協力の歴史も間もなく40年となります。過去に学びつつ、更なる防災協力をメキシコと共に、そしてメキシコと共に他国に普及していくことが必要と考えています。


気候変動の影響を大きく受けており、水道システムの老朽化が進んでいるメキシコシティを含むメキシコ盆地の水資源問題についても心配しています。メキシコシティと名古屋市は40年にもわたる姉妹都市関係にあり、JICAでは名古屋市と連携してメキシコ市の水道事業体の強化や水道管の耐震化に取り組んでおり、今後も取り組みを強めていきたい領域です。

 

社会課題をビジネスチャンスに変える


災害や水資源不足の課題はビジネスのチャンスであるとも言えます。今では複数の日本企業がメキシコの防災や水のビジネスに参入しようとしており、JICAでは長年の協力関係にあるメキシコの政府機関と企業との間をつなぎつつ、JICAの企業支援スキームを駆使した協力を実施しています。企業の社会課題解決型ビジネスもメキシコでは主流になっていることから、JICAでは民間連携事業を実施しており、企業が実施するプロジェクトへのJICAからの投融資、日本企業製品の実証や市場調査の支援拡大に取り組んでいます(JICAの民間連携事業→https://www.jica.go.jp/activities/schemes/priv_partner/index.html)。


企業支援という点では、メキシコの自動車産業の強化も重要な課題です。JICAでは20年近くにわたり、日本の自動車産業も部品調達を行っているメキシコ自動車部品企業の生産力強化や日本の自動車企業とのマッチング支援等を行ってきました。最近では自動車の電動化に伴う部品産業の多角化や人材獲得競争の激化に伴う優良技術者の確保が困難になっているという課題に向き合うべく、日系企業と現地企業、職業訓練校、州政府などとの連携を深めることで、課題解決に寄与していきたいと考えています。

 

MEXITOWN: 小林所長ご自身へのご質問です。メキシコに来られて数か月がたちますが、メキシコに対する印象を教えてください。

 

小林所長: 正直、メキシコにおいて「慣れない」と感じる点はほとんどありません。人々も親切で、仕事もこれまで駐在してきた国と比べてスムーズに進むように感じます。何よりメキシコの皆さんは非常に親日的であり、仕事に対して熱心な方が多い印象を持っています。約束を守り、遅れる際には連絡を入れてくれるなど、日本に似た面も多く、居心地が非常に良いです。


MEXITOWN: 最後に、MEXITOWNの読者の方へのメッセージをお願いします。


小林所長: メキシコは非常に深みのある国で、掘れば掘るほど面白さが増すような国だなと感じます。日本企業をはじめとした沢山のメキシコの開発共創パートナーとの出会いが毎日ある中、更にいろいろなヒト、モノ、コトに会えるのが楽しみです。本記事を読んで少しでもご関心を持っていただけた方、お気軽にご連絡ください!


※1 仙台防災枠組については、https://jcc-drr.net/projects/sendai-framework/

※2 本インタビューは2024年8月中旬に行われたものです。

 

趣味の一つ、秘境探検。観光ガイドの資格を活かして。

知床の流氷トレッキング、ダイビング・駐日大使館の外交官を連れて


経歴

小林千晃(Chiaki Kobayashi)


成蹊大学文学部国際文化学科卒後、2005年JICA入構。JICA本部、インドネシア事務所、ブラジル事務所、モザンビーク事務所を経て2024年5月よりメキシコ事務所・所長。通訳案内士(英語、ポルトガル語)。財団法人 AFS 日本協会理事、成蹊大学非常勤講師(2023-2024)、横浜国立大学国際協力マネージメント講座講師(2022-2023)歴任。趣味は秘境体験。


 



 

 

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