今回は元・在メキシコ日本国大使で、海外邦人安全協会・会長の小野正昭氏より、メキシコ時代のお話しや海外で日本人が快適に過ごすための心得などをご執筆いただきました。メキシコ時代はモノクロの写真を撮影し、写真集を出版。外務省でのご経験を活かし海外に住む日本人の安全についてセミナーを行うなど、現在も精力的にご活躍されています。それでは、是非ご覧ください。
<目次>
メキシコ時代の思い出
3年半のメキシコ滞在中、2年にわたり日墨両国は官民を挙げて交流400年祭を祝いました。北は米国、南はグアテマラとの国境まで31のほとんどの州を訪問し、日系人や進出企業の方々の参加も得て土地の人々と交流を深めたことは最高の思い出です。
なお、地方を訪問する際にはカメラを片手にメキシコの多様な自然や文化をモノクロフィルムに収め、写真集「メキシコ-光のモザイク」を出版しました。この場を借りて、改めて日系人をはじめとする多くの方々に感謝申し上げます。なお、写真集の巻頭には、20世紀メキシコにおける最も重要な人物の一人である 故・Luis Nishizawa Flores 氏より
「Masaaki Ono, Embajador de Japón en México, es amigo permanente de mi museo」との 言葉をいただいたことは大変光栄なことでありました。
大作製作中のルイス西澤画伯
また、帰国直前に発生した3.11東日本大震災に際しては、大統領から小学生に至るまで、メキシコ全土から日本支援の声が一斉に沸き起こりました。「支援できることがあれば皆さんの兄弟であるメキシコ国民に遠慮なく声をかけてください」これは震災直後、カルデロン大統領の長女の中学生マリアさんが在メキシコ日本大使館の記帳簿に寄せてくれたメッセージです。「皆さんの兄弟」という呼びかけは、日本人に兄弟のような親しみを感じているメキシコ人の本心を示しています。この特別な関係は一朝一夕で出来るものではなく、両国民の長期にわたる「善意の交流」があるからだと考えます。
3.11の東日本大震災の際、カルデロン大統領から支援のメッセージを受けた時の写真
再訪時に行きたい場所
再訪したい所;バハカルフォルニア州のクジラの生息地、支倉常長上陸の地アカプルコ、オアハカ州の巨大サボテン群、タバスコ州のオルメカ巨大人頭石、ベラクルス州のコルテスの家等多いのですが、一つに絞るとすれば、やはりチアパス州のサン・ファン・チャムーラの広場でしょうか。
チアパス州を訪れる度に印象に残ったことは、そこに住む人々の生命力の強さです。その強さは熱帯雨林の中に花開いたマヤ文明とアジア、アフリカの文明との融合の証かもしれません。また、日本人にとってチアパス州は1897年に最初の移民を受け入れてくれた地でもあります。爾来、日本は、チアパス州との間には120年以上にわたり友好の歴史を育んできました。滞在中の2009年7月にはチアパス港を海上自衛隊練習艦「かしま」が訪問し自衛隊音楽隊が入港式典で演奏し、現地の伝統舞踊団が一行を大歓迎しました。
海外邦人安全協会の役割
外務省退官後は、現役時代の経験を活かし海外邦人安全協会の会長を務めています。同協会は1976年11月外務省所管の社団法人として発足しました。近年、海外の邦人や企業を取り巻く情勢は厳しさを増しており、邦人がテロの標的になったり、新型感染症に罹患したり、戦乱や大規模災害に巻き込まれるリスクが増大しています。
海外での安全に役立つ情報の提供や助言を行うとともに安全対策などをテーマにした専門家による講演会・セミナーを開催するなどの活動を行っています。
海外生活で気を付けること
三点申し上げます。一つ目は、日ごろの情報収集です。大使館、総領事館の「たびレジ」で登録して渡航先の最新の安全情報を入手してください。また、現地社会に溶け込み、隣人や在留邦人と良好な関係を築き、そこから得られる「口コミ」情報も役立ちます。
二つ目は、平素からの準備です。所属する組織のマニュアル作成と訓練も必要です。事前の準備で重要なことは身近なパートナーとの打ち合わせです。個人なら家族、企業なら現地社員が重要なパートナーでしょう。企業の場合、現地社員だけではなく、その家族も守らなくてはいけません。悲観的に準備し楽観的に行動することです。
三つ目は、危険は突然やって来ます。福島の原発事故、安倍元総理銃撃事件など想定外のことがしばしば起きます。「想定外を想定すること」が重要です。万一緊急事態に遭遇した際には、退避手段(商業便など)のあるうちに退避をすることです。退避する場合の安全三原則(目立たない、行動を予知されない、用心を怠らない)が重要です。
海外邦人へのメッセージ
日墨友好を語るとき、忘れてならないことはメキシコにおける日本移民の存在です。今日約二万人の日系人がメキシコ各地で活躍しています。日本移民はメキシコの法律、習慣を尊重し、同時に日本人の誇りや名誉を失うことなく、勤勉努力を重ね地域社会に貢献してきました。
他方、今日の世界は歴史の転換期を迎え、在留邦人をとりまくリスク環境も厳しさを増しております。在留邦人の皆様におかれましては日墨協会や日墨学院など日系諸団体との連携を強化しながら両国の親善友好の増進にご尽力くださいますようお願い申し上げます。
支倉像と日墨学院の学生
小野正昭(令和5年5月吉日記)
経歴:
外務省入省(1970)、米大参事官(1989)、在韓国大参事官(1990)、朝鮮半島エネルギー開発協力機構(KEDO)日本代表(1997)、領事移住部長(2001)、在ポーランド大使(2003)、元在メキシコ日本国大使(2007).