「メキシコに進出する日系企業はどのような企業が多いのですか」
「メキシコのどこに日系企業が、何社ほどありますか」
こういった質問をよく耳にするMEXITOWN編集部。そこで今回からメキシコの日系企業でご活躍される方々にもスポットを当て、メキシコでの事業内容をご紹介するインタビューをを始めました!
記念すべき第1回目はグアナファト州・シラオ市にある、プエルト・インテリオール工業団地内に拠点をおく山善メキシコの吉倉様にインタビューをしました。山善メキシコ様はメキシコに法人を設立して今年で7年。会社のご紹介だけでなく、コロナ禍での取り組みを通じて感じたことや、今後のビジョンなど、幅広くお聞きしました!
<目次>
山善メキシコは今年で設立7年目を迎えます
MEXITOWN(以下、MT):吉倉さん、こんにちは!本日はお忙しいところお時間ありがとうございます!インタビュー前に山善メキシコ様のウェブサイトは拝見しておりますが、吉倉さんから山善のご紹介をお願いします。
吉倉様:ありがとうございます。まず、日本の山善のご説明をしますね。
山善は1947年戦後間もなく設立され、今年で74年目を迎えます。大阪、東京に本社を構え、国内に53ヶ所の拠点、海外現地法人が17社(事業所66ヶ所)あります。従業員数は海外法人の現地スタッフを含めてグループ全体で3,077名います(連結:2020年3月31日現在)。生産財事業と消費財事業の2事業を柱として企業運営を行っております。メキシコは生産財事業の海外法人で、工作機械、切削補要工具、測定機器、環境機器、その他産業機器全般を取り扱っています。
山善メキシコ紹介ビデオ
次に山善メキシコですが、メキシコの現地法人として2013年に設立され、グアナファト州シラオ市のプエルト・インテリオール工業団地内とサン・ルイス・ポトシ州サン・ルイス・ポトシ市にオフィスがあります。現在従業員は両オフィス併せて30名ほどです。私は2011年頃から出張ベースで市場調査を開始し、2012年1月にメキシコシティに駐在員事務所を設立致しました。そこから事業展開を開始した形となります。
メキシコを米州地域のハブとし、今後、中南米の販路を拡大したい
MT:メキシコに拠点を設立しようとなったきっかけは何でしょうか。
吉倉様:北米拠点としてはアメリカの進出が古く50年以上経過しております。すでに全米に15拠点の事務所を展開しておりますが、80年代後半から中国を含むアジアの台頭が顕著になってきたこともあり、当社の海外投資もアジアを中心とした国に集中しました。
2010年代に入り、更なる海外事業拡大において、︎中南米への販路拡大も視野に入れた形で、米州生産のハブとなりえるメキシコに進出することを決めました。丁度私が中国での駐在を終えた後の2010年頃から、日系の自動車産業のメキシコへの進出が増えてきました。そうした背景もあったので、メキシコにまずは現地法人を設立し、今後中南米を攻めていく計画でした。
MT:2010年代から日系の自動車メーカーがメキシコに進出し、製造業も多く進出しましたが、吉倉さんの感覚として、予想以上に進出した企業は多かったと言えますか。
吉倉様:当初の予想からは日系の進出数は多くない印象があります。ただ、山善メキシコはメキシコ現地の日系企業だけでなく”非日系”(欧米系、韓国系、中華系、メキシコ系の企業)の企業もターゲットのお客様となっています。現在は未だ日系企業様とのお取引の割合は多いですが、今後徐々に販路を拡大していきたいと考えています。当社の海外事業は日系のお客様が30%、非日系のお客様が70%となっておりますので、最終的には、そこの割合に合わせていきたいと思います。
MT:山善メキシコ様のプエルト・インテリオールのオフィスにはショールームも備えておりますよね。ショールームの役割について教えてください。
商社でありながら、自社で高度なエンジニアリング機能を備える
プエルト・インテリオールのオフィス内にあるショールームの様子
吉倉様:山善メキシコの強みとして、商社でありながら自社でエンジニアリング技能を備えている点が挙げられます。ショールームは代表的なメーカー様40社の製品を展示しておりますが、単に購入いただく製品の機能確認のみならず、ターンキー、オートメーションなどのテクニカルセンターとしての役割も果しています。その強みをショールームを通じてワンストップで提供できる機能を有しており、トータルソリューションプロバイダーとして様々な商品を取り扱い、設備の据付、メンテナンスのみならず、設備の改造、治具搭載、ツールレイアウト、プログラム、工程能力検証など全てにおいて最適な提案を行っております。
また、最近は省人・省力化にも力を入れており、様々な設備のデータハンドリングの自動化を推進しております。
山善メキシコ主力工作機械:ブラザー社マシニングセンタ
MT:オートメーション化を推進とありますが、ここメキシコでも課題の一つとしてよく耳にしますね。
吉倉様:メキシコの多くの工場で、技術者を如何に育てるかが課題の一つとなっています。
その理由の一つとして、従業員の定着率もありますが、私はメキシコの産業構造そのものに問題があると考えています。
私は2001年から2008年まで中国に駐在していましたが、2000年代初頭の中国は世界の工場と呼ばれ、外資系企業を誘致し、安い労働力をどんどん活用していました。これはメキシコも同じですね。ただ一番の違いは地場産業が発達しているかどうかです。中国のみならず、インドもそうですが、当時から製品の良い悪いは別として地場産業の裾野はかなり広かったと思います。一方メキシコは、世界各地と自由貿易協定を締結していますが、これは、保護すべき地場産業の裾野が広くないことを意味しています。産業の裾野が広くなければ、技術者を育成すべき場が少ないという事になります。
ここメキシコにおいては、このような背景から経験値の高いエンジニアの確保が課題となっており、技術者の育成が各社苦心をしていると良く耳にします。
今後、徐々には産業の裾野は広がっていくとは思いますが、産業構造が確立するまでには時間がかかると考えています。
生産現場では人件費が米国と比較して安価であることを理由に、まだまだ人による作業が発生しています。人が介入すれば、必ずミスは発生し、頻度が高くなれば、生産にも影響を及ぼします。
このヒューマンエラーの頻度、観点から生産の効率化におけるオートメーションがメキシコにおいても注目されつつあります。
米国は人件費高騰の問題からオートメーションが推進されていますが、メキシコの場合は異なった観点からのオートメーション推進となります。
MT:昨年のコロナ禍において一時的に休業する期間や業務縮小する時期もありました。その中で行ってきた取り組みについて詳しく教えてください。
吉倉様:コロナ禍が昨年4月頃から全世界的に広まり、リモートワークやウェブ会議が急増しました。弊社もウェブでの展示会やオンラインセミナーを行い情報発信を行ってきました。良かった点は、様々な企業でウェブが取り入れられ、時間短縮に繋がった部分も多分にありました。
本社、もしくは他地域とのミーティングも殆どウェブで完結することになったため、ヒトの移動が少なくなり、時間効率は格段にアップしました。
アフターコロナにおいても、この傾向は変わらないと思われ、更にグローバル化のスピードもあがってくると思っています。一方でお客様に訪問して行う営業活動は100%リモートでまかなうことは非常に難しいと考えています。打ち合わせから、設備導入、メンテナンス、セミナー、情報配信など、当社もそうですが、お客様にとっても、ある意味リモート疲れのようなものを感じました。
今後、コロナ前の様に全てが戻ることはないというのは容易に想像できる内容ですし、アフターコロナに向けてリアルの世界とバーチャルの世界をいかに融合してうまくやっていくかが喫緊の課題と言えますね。
今後のビジョン ーメキシコNo.1の技術商社に、そしてメキシコの産業発展に貢献していく
MT:今後の山善メキシコ様のビジョンをお話ください
吉倉様:大きく分けて3つ挙げられます。
メキシコナショナルスタッフの育成、経営参画
まずは、ナショナルスタッフの育成により力を入れていきたいです。マネージャークラスのメキシコ人を将来会社の核となる人財に育てることです。メキシコ人のマネージャークラスが経営に参画できるように知識を習得させ、如何に考える習慣を与えるか、日々考えています。山善メキシコは日系企業ではあるが、あくまでメキシコの企業である。これが意味するところは、日本人だけが運営する会社ではなく、メキシコスタッフ皆の会社である。ということを意識づけています。将来的には、彼らの中から役員を任せられる人財が出てくることを望んでいます。この事は組織の拡大には絶対条件だと考えています。
メキシコにおけるNo.1 の技術商社
モノを仕入れて売ることほど難しいことはありません。単純にモノを仕入れて売るだけでは、会社の価値を見出すことができません。そこで何を付加価値として業界で生き残っていくのかを考えた時に、山善メキシコはトータルソリューションプロバイダーとして技術力の更なる向上を目指し、メキシコにおけるNo.1の技術商社を目標としています。設備の販売のみならず、最適な付帯機器、工具、プログラム、所謂ターンキーソリューション。また、省人・省力、自動化など必要とされる技術をワンストップでサービス提供を可能にする。
こうした付加価値を地域に提供することにより、結果、メキシコの産業に貢献できると考えています。
グリーン・リカバリー・ビジネスへの取り組み
アフターコロナに向けて、多くの企業がグリーン・リカバリー(※1)を意識するようになってきました。脱炭素の推進など、環境に配慮したビジネスに企業が焦点をあてていくことで、長期的な成長にもつながると考えられています。山善本社でも各事業部が掲げているビジョンでもあり、山善メキシコでも今後、企業価値を高めていくために、再生可能エネルギーの利用や、環境に配慮した工場づくりの提案も積極的に行いたいと考えています。
世界に目を向けて、視野を広げてほしい
MT:ありがとうございます。さて、吉倉さんご自身ですが、今年でもうメキシコ7年目ですね!
吉倉様:そうですね、今年でもう7年目に突入しました。2011年から出張ベースできてはいましたが、メキシコの前は中国に7年間駐在していましたので、初めての北米でしたね。
MT:メキシコでしか経験できないこともありますしね!
吉倉様:レイトレーディングで質の良いテキーラを味わって学ぶことですね!(笑)
メキシコだけではないですが、週末はレオンのゴルフ場でゴルフもします。高地にいるとボールが
日本でプレイするよりも、よく飛びます。松山英樹になった気分です。冗談ですが。(笑)
MT:充実された週末も送っている吉倉さんから最後に、今後海外に出て活躍する予定のある方・興味のある方に一言メッセージをお願いします。
吉倉様:メキシコは世界でも親日国の一つとして知られています。メキシコだけではないですが、現地で生活することにより文化の違い・国民性の違いを知り、現地の文化を学び楽しんでいただきたい。メキシコは日本からも遠く、なかなか行けない場所ではありますが、そんな遠いメキシコ・そして世界に目を向けて、視野を広げたいと思っている方にはどんどん世界で活躍してほしいと思います。
MT:今日はとても勉強になりました。吉倉さん、ありがとうございます!コロナが落ち着きましたら、また美味しいテキーラ飲みにいらしてください!
吉倉さん:もちろんです!ありがとうございます! (注釈) ※1 新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退への対策で、環境を重視した投資などを通して経済を浮上させようとする手法。
参考URL:日本経済新聞「グリーンリカバリーとは 環境投資で経済浮上」https://www.nikkei.com/article/DGXZQODB162CT0W1A110C2000000/
編集後記
今回から始まったメキシコの日系企業にインタビューですが、いかがでしたか。気さくな人柄で、業界のことが分からない方にも丁寧に・分かりやすくご説明をいただきました。
吉倉様のお話をお聞きしている中で最も印象に残ったのが、今後のビジョンをお話いただいた中での「山善メキシコは日系企業ではあるが、あくまでメキシコの企業である」という一言です。日系企業とはいえ、いかにどう現地の企業になれるのか。メキシコのナショナルスタッフと向き合い、メキシコの地に根付いていくことが一番重要なこと。こうしたビジョンをお持ちだからこそ、現地スタッフや取引先企業からの信頼も厚いのだと実感しました!
会社情報・お問い合わせ先
Yamazen Mexicana S.A. de C.V.
所在地:Av. Mina de Guadalupe 950-i, Parque Industrial Santa Fé IV, Puerto Interior, Silao, Guanajuato, México, C.P. 36275
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